2007年 01月 21日
三日目 |
私と彼女の間には急な階段があり、毎週火曜の二時限目に私たちがいる場所の変わらないかぎり、それは変わらない。階段は天井と床を貫いてそこにあるので、私たちはいつも寒さに震えた。風が吹きぬけるからだ。上から下、または下から上へ風は私と彼女の横顔や肩を撫でている。空気がつねに不安定にそよぎ続けているこの不快な条件から逃れることはできない。なぜなら階段を挟んでたった二つ机の並ぶこの教室で、ほかに授業を受ける生徒はいないのだ。
たった二人と、教師一人にふさわしいサイズの床。教師は階段を上ってその床下から現れ、授業を終えるとまた階段を上って天井の穴へ去ってゆく。つまり教室は階段の途中にしがみついた鳥の巣のようなものであり、教師は下階から上階へ移動するついでに教室に姿を見せるに過ぎない。それが正確に毎週火曜の二時限目であるために、それは授業と呼ばれるのだ。
「いつからここに?」初めの日。始業チャイムが鳴る少し前に席につくと、彼女は珍しそうに話しかけてきた。「なんで私以外の人がいるの?って驚いたわ。私にしか必要ない科目と思ってたから」
「まだ三日目ですよ」鞄から出した教科書の表紙に自分で驚きながら私は答えた。「分からないことだらけです。何故この教室にいるのかも分からない」
「これは先生が描いた絵なの」女は表紙を白い爪で指さすと、しかめると笑うの中間のような顔をした。「毎晩見てる夢で先生自身はこんな姿なんだって。自分が他人にこう見えるのを先生は極度に恐れてるのね。だからこうしてわざと生徒の目に晒して、何か反応があるか教壇から見張ってるってわけ」
それは二匹の犬が頭のない頸で一匹に繋がっている生き物だった。周囲には説明文のようにびっしり草原が書き込まれている。
「授業中は教科書を閉じないことをお勧めするわね。先生の熱い視線が欲しいなら話は別だけど」
いったい何の授業なんです、と肝心のことを訊ねようとしたとき足音がした。それはいつ近づいたのか分からぬほど急に間近から響いた。
「私、首塚襲子」と女は云った。「あなたは?」
「木戸です」私は答えた。
足音の大きさに似つかわしくない弱々しい老婆が、自動販売機から買われたように床に進み出た。
たった二人と、教師一人にふさわしいサイズの床。教師は階段を上ってその床下から現れ、授業を終えるとまた階段を上って天井の穴へ去ってゆく。つまり教室は階段の途中にしがみついた鳥の巣のようなものであり、教師は下階から上階へ移動するついでに教室に姿を見せるに過ぎない。それが正確に毎週火曜の二時限目であるために、それは授業と呼ばれるのだ。
「いつからここに?」初めの日。始業チャイムが鳴る少し前に席につくと、彼女は珍しそうに話しかけてきた。「なんで私以外の人がいるの?って驚いたわ。私にしか必要ない科目と思ってたから」
「まだ三日目ですよ」鞄から出した教科書の表紙に自分で驚きながら私は答えた。「分からないことだらけです。何故この教室にいるのかも分からない」
「これは先生が描いた絵なの」女は表紙を白い爪で指さすと、しかめると笑うの中間のような顔をした。「毎晩見てる夢で先生自身はこんな姿なんだって。自分が他人にこう見えるのを先生は極度に恐れてるのね。だからこうしてわざと生徒の目に晒して、何か反応があるか教壇から見張ってるってわけ」
それは二匹の犬が頭のない頸で一匹に繋がっている生き物だった。周囲には説明文のようにびっしり草原が書き込まれている。
「授業中は教科書を閉じないことをお勧めするわね。先生の熱い視線が欲しいなら話は別だけど」
いったい何の授業なんです、と肝心のことを訊ねようとしたとき足音がした。それはいつ近づいたのか分からぬほど急に間近から響いた。
「私、首塚襲子」と女は云った。「あなたは?」
「木戸です」私は答えた。
足音の大きさに似つかわしくない弱々しい老婆が、自動販売機から買われたように床に進み出た。
by ggippss
| 2007-01-21 12:18
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